雨の憂鬱な午後のロンドン」を歌った曲がタイトルに採用され、それに合わせて製作されたジャケット写真とあいまって都会的で閉鎖的な冷たい印象を与える地味なアルバムと捉えらえられがちですが、熱心なウイングス・ファンの多くに「アルバムの中でいちばん大好き」と言わせる不思議なアルバム「ロンドンタウン」。一般にはとして捉えられている「ロンドン・タウン」。その隠れた魅力を再発見させてくれる3枚組です。
1976年の全米ツアーの記録的な成功で、名実ともに世界トップグループの座に再度上り詰めたポール。この年はライヴ・ツアーも企画せず、春が訪れても霧と雨音にふさがれたロンドン中心のスタジオ・ワークに専念していました。そんな中エンジニアに聞かされたハワイでのレコーディング話に触発されたポールは、「もっと新鮮な感覚が欲しく」なって、晴れ渡るバージン諸島沿海での海上レコーディングを決意。チャーターした3隻の小型船のうち一艘を24トラック録音ができるスタジオに改造。その「ウォーターメロンセッション」と呼ばれる伝説のレコーディングで、5月いっぱいを使ってベーシックトラックを録音。8月には自然いっぱいのスコットランドで追加レコーディング。秋になってロンドンに戻ってアルバムを完成させます。
英国内でのビートルズの「シーラヴズユー」の最高シングル売上記録を塗り替える超大ヒットになったシングルとして発売され、アルバムには収録されなかった「夢の旅人」が収録されていたら。アルバムタイトルが製作時の仮題「WATER
WINGS/水の翼」だったら、神業的なポールの終着点なしの音楽才能の広さを体感できる世界的傑作アルバムに評価されていたに違いありません。
歌詞に登場する「海、妖精、風、花、雨、川、月」がポール独特の甘く苦いメロディラインとアコーステックな響き乗せられて、すさんだ気持ちを癒してくれます。暗いロンドンで夢見る心が束縛を抜け出し、時間旅行で過去にタイムスリップしたり、伝説のグルーピーや妖精が跋扈します。定番の自然な愛を説いたりするほかにも、子供達の未来に平和と光を訴えかけ、幸せのためにはちょっとした気持ちが運を呼ぶ、と勇気付けてくれた後、どんなことにも挫けちゃだめと励ましてくれます。一切の縛りのない自由なストーリー展開のクライマックスでは、海原の妖精の祈りとともに航海に出発しますが、いつしか宇宙空間に…。次作の「バック・ト・ジ・エッグ」の宇宙船に繋がっていくのです。
この3枚組には、バージン諸島でのホームデモ、船上録音のラフミックス、8月のスコットランドでの録音、ラフミックスのテストプレス盤を中心に、春先の録音、レアバージョン、各種プロモ、放送出演など、2月のアビーロード他のスタジオデモ録音に始まり、6月のジャマイカでのレコーディングも挟み、年末クリスマスのBBC番組で「夢の旅人」を歌うところまで、地球的広がりをもって録音された1977年の仕事を集大成したものです。
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